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2007年7月18日 (水)

名杜氏の謦咳に接する

7/16に「常きげん」鹿野酒造杜氏の農口尚彦氏の講演を拝聴する。主催は大阪酒塾というか、酒好会とかいろいろの共催のようだった。道頓堀ホテルは難波の北西はずれで歓楽街のまっぱだ中、隣はニュージャパン、西の方はホテルだらけというシチュエーション、5,60名は参加していたが、聞く方もよほどか熱心な地酒ファンである。製造に携わる若手が10人くらいは各蔵から参加していたが、いわゆる蔵元というのは私くらいで、ちと場違いだったかと反省してもしかたがないから、終始黙って飲むことにする。

 山廃を学ばれた経緯やご苦労、心構えや大まかな製造上の注意など、熱心かつ丁寧にお話いただけた。さすがに能登杜氏で四天王と呼ばれ現代の名工に選ばれた方だけに、質実で研究熱心な努力家であることが感じられた。

 技術的な所は会場で理解できた者はほとんどいないだろうし、私などは、自分が聞くよりはましだろうと、社員を連れてきたのだが。山廃は伝統技術だと位置づけられているが、これから生もと系に取り組むつもりの製造関係者はどういうアプローチをしていくか自体をこうした機会から考えていくことになる。

 低温の水麹の中で酵母を増殖させていくためには、もと麹はヒネた、旨味や糖のある麹でないといけないという。掛け麹は酵素力価重視でよろしい。しかし水麹が4度で蒸し米は21度、仕込みは10度とだいたい工程毎の温度は目途を持たれているのが印象的だ。つまり地方、蔵が違えば工程が変わることも意味する。

 断片的だがノートの一部を書いておこう。5度まで温度を下げたところで暖気操作に入る。100㎏もとなら20㎏の暖気を入れるが、アルミ暖気なら75度の湯を入れたものを、2時間入れておいて1日の分解量を分析する。ボーメ15.5で酸度3.3を何故か強調される。そこで720ml3本程度まで増殖させた酵母を添加。13日でこの条件を作る。以下、あるポイントでブレーキをかけて水暖気を入れて、とか実作業に携わる者でないと聞いてもまるでわからないことを丁寧に話される。これは製造担当者が参加していることを意識されているからで、私の場合では細かなことはわからないから、1ヶ月枯らしても使えるとか、きちんと作った山廃の酒は酸と味のバランスが良く、喉につかえないとか、特徴をつかむことに集中した。酵母自体に耐アルコール特性を持たせてから使うということらしい。

 しかしよく聞いていると山廃は酒好きの酒だと思う。歴史的には、労働の酒という背景があったようだ。きつい農作業に耐えた後、カップ1杯で空腹でも、つまみがなくとも飲めて、体に染みこむ、酔える酒というコンセプトなのである。文化的背景というものを農口氏の体験から感じられたのがすばらしかった。都市生活を送る地酒ファンでも、地酒を深く愛する者で山廃の伝統技術に耽溺する者は多い。しかし、それだけに技術習得は難しく、良さを引き出した製品を造るのは非常に難しいという印象を受けた。

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