桶はなぜ上口が底より大きいのか(桶屋さんの話)
12月くらいは地元の配達を手伝う。忙しそうで結構だと言われもするが、瓶詰が間に合わなくて発送が遅れる遠方の販売店にしてみれば、そんなことより瓶詰能力の強化とかに取り組むのが経営者の仕事だろうと叱られそうだが、諸事情ご賢察のほどを。さて帰ってきたところ桶屋さんが寄ってくれていた。和歌山も梅酒は好調とて中古タンクの移動が多いそうな。そんなことは当社に関係もなく、木桶仕込みもする場所がなくて、そう仕事も頼めないのだが、ここには資料館がある。その整備保守には彼の桶屋さんは余人を以て代え難く、そっぽを向かれれば廃館は確実、重要技術供給元なのだ。
せっかくの機会なので桶についてお尋ねする。ニューヨークのビルでも飲料水は木の桶であり、FRPでは絶対いい飲み水は得られないという。そういうビル、マンションの貯水槽も手がける彼の製桶所の仕事でも貯水槽の側面は垂直、ワイヤーで側板を縛ってある。それが何故、日本の酒や醤油の仕込み貯蔵に使う大桶は上側の開口部というか上辺が大きいのに底面はすぼまってやや細いのか。
ちなみに酒蔵用の大桶の標準は30石桶、上辺の直径約2.3m、高さ約1.95mである。
作業がしやすい?発酵にいい?。最近のステンレスの吟醸用のタンクだのといってもみんな側面は垂直だろが。
答えは材料の木材を効率よく使うためらしい。吉野杉の80年生から120年生のものを大桶を組むには用いるらしいが、木というのは根元がより太く上へいくほど細くなる形状をしている。その中で大桶用の側板材を無駄を少なくして効率良く取れるようにするために、底がやや細い形状にするそうだ。米国のビルの貯水槽が単純な円柱形直なのは向こうの木の成長が早く(と桶屋さんは言うが、樹種による形状の差だろう)、木の形状がより円柱に近く、丸太にした時、末口径と元口径の差がはるかにちいさいということらしかった。
木を伐るときに地面から3mだの4mだの6mだので刻んでいくのだが(倒してから小ぎる)、根元に一番近い部分を元玉、次を2番玉と呼んでいく。大桶は元か二番だかを用いるが、節のないものを選ぶ場合は2番玉にするというが。
ということは木が高かった時代の工夫で、昨今のように木が安いなら側板はまっすぐでできるのでは?という感じもしたが、伝統とはそんなものではない。また底が細くなった形状だからこそ、竹のタガが効くんだという。細く切って平滑に削った竹を編んでベルト状にして巻いているんだが、これがたぶんその形状の方がよく食い込んで吸い付くらしい。内容物があるときとないときで、側板は伸び縮みするようで、竹のタガも同様に変化する。
日本の伝統技とは、可動的で柔軟さがあるようだ。繊細微妙で奥深いが故、修得が難しく守っていくのが難しいらしい。
今も木甑にこだわる蔵もあるくらいで、木の熱の伝わり方や通気の具合、何より伝統を感じさせる文化性だわな。
| 固定リンク
「地酒」カテゴリの記事
- 大阪国税局清酒鑑評会 吟醸酒の部 優等賞(2018.10.31)
- 2018年度全米日本酒歓評会で金賞を受賞しました(2018.06.29)
- 純米しぼりたて 発売しました(2017.11.28)
- 今年の新酒第1号搾りました(上槽)(2017.11.13)
- 今シーズンの酒造りが始まりました(2017.10.09)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント